がんびーの:雑談でも

映画のこと、本のこと、音楽のこと…。最近あったことをタラタラと綴ります。お暇な方、お付き合いください。

ジャック・ケルアック『オン・ザ・ロード』を読んで

こんにちは。

今日は二週間くらい前に読んだ「オン・ザ・ロード 路上」(以下:路上)の感想を書きます。多分就活の時期に読んだのは間違いだったんですけど、ずっと読みたかった&かなり面白かったんで色々垂れ流しますね。

そもそもなんでこの小説知ったかと言いますと、East Endに行ってシトウさんと映画の話で盛り上がった時に、僕が「この前パーマネント・バケーションみたけどすごい面白かったっす、ジャームッシュってなんかいいですよね」的なことを言ったら、「あれ完全にビートだよね〜」って言われまして、ビートってなんぞやってなったわけです。で、色々シトウさんに語られ、すげぇってなりました。

その時に「ビートニクを知るならまず路上を読むべき」と教えてもらいすぐ買いました。今考えれば、East End のカウンターにギンズバーグの詩集とか東洋思想の本とかたくさん置いてあって、シトウさん滅茶苦茶ビートニクLOVEな人だったんだなと思います。

まあそういう感じで知りまして…

 

あらすじ

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ざっくり説明すると、主人公の作家サルが親友のディーンと何も持たずにアメリカ横断の旅をするって話です。右端のニューヨークから左端のサンフランシスコに行って、そっからニューオリンズ経由でニューヨークに帰って、色々寄って最終的にメキシコに行く。その道中でいろんな人に出会って、いろんな恋をして、いろんな犯罪を犯して…。別に主人公の成長物語とか、波乱万丈な旅とかではなくて、ほんとにただの紀行文です。

この小説に出てくる人物には勿論モデルがいまして、主人公が著者のケルアック、親友がニール・キャサディ、他にもアレン・ギンズバーグウィリアム・バロウズなど、当時ケルアックが仲良くしてた小説家仲間が登場します(ニールは一般人)。ケルアックは実際に彼らと長旅をして、それから帰ってきて一ヶ月ほどでこの小説を書いたらしいです(旅をしながら書いたとか、10年くらい構想を練ってたとか諸説あるらしい。多分1ヶ月で書いたはケルアックがインタビューでついた嘘)。

ビートとは

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 冒頭で登場したビートが「路上」とどういう関係があるのか。

シトウさんが言ってたビートってビート・ジェネレーションのことで、1940年代終盤から1960年代中盤にかけて、アメリカで異彩を放ったグループおよび彼らの活動の総称です(ビート・ジェネレーションって名前はケルアックが作った)。そのグループの中心メンバーが、路上の著者ジャック・ケルアック、詩人アレン・ギンズバーグ、小説家ウィリアム・バロウズなんですね。

彼らの文学思想や生活様式が、当時のアメリカの若者の中で「めちゃクールじゃん!」ってなって多くの人がビート・ジェネレーションの真似をしました。そんな若者を見たコラムニストのハーブ・カーンが、記事の中で彼らのような人間を「ビートニク」と表現しました。なんで結構混在しがちなんですが、ビート・ジェネレーションとビートニクって厳密には違う意味、ってか言葉の誕生経緯が全然違うんですね。

ビートの影響 

アメリカの若者にビートの文化が大ヒットしまして、その中でも「路上」はバイブル的存在でした。じゃあ実際にどんな物に影響したのか。

影響された人の多くは、音楽家、映画監督などをはじめとする芸術家たちでした。特に音楽には多大な影響を与えたようで、ボブ・ディランジョン・レノンニール・ヤングブルース・スプリングスティーンなんかは夢中になって路上を読んだらしいです。ビートルズのビートもこっからきてる説が濃厚です。ロックの「旧体制を打ち壊す」「革新的であり続ける」みたいな考えは、割とビート・ジェネレーションの思想から来てるかもしれませんね。

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映画ではジム・ジャームッシュパーマネント・バケーション)、ヴィム・ヴェンダース(さすらい)、デニス・ホッパーイージー・ライダー)なんかのロードムービーに絶大な影響を与えてます。イージー・ライダーとか路上そのものやね。ジャームッシュの作中には引用も登場します。

あと芸術家以外で言うと、ヒッピーなんかの思想もビートの思想が根本にあります。まあこれは順番的な物で、ビート・ジェネレーションってカウンターカルチャーが衰退して、次にできた同じようなのがヒッピーだったってだけかもなんだけど。

 

ビートの思想

そんなカリスマ的な力をもった思想ってどんなもんか。多分その思想の根っこを知るには当時のアメリカの歴史的背景を知るのが重要です(僕もまだ勉強中なんで以下が全部正しいとは限らないです)。

当時のアメリカはソビエトとの冷戦の真っ最中。莫大な消費を前提とした「American way of life」と呼ばれる繁栄が享受された時代であり、同時にアメリカが画一化に向かって変化し始めた時でもありました。当時のキーワードは「順応」。資本主義に対抗する共産主義者等の異分子は妬まれ除外されました。アメフト好きの父親に専業主婦の妻、二人の子供に、大きな庭とでかいガレージ、こんな感じの「アメリカに順応した家庭」が正義とされていたのです。

そんな大衆の流れに反抗したのがビート・ジェネレーション、いわばカウンター・カルチャーです。彼らは何不自由のない生活に飽き、またそんな生活が一番良いと謳う人間に不満を覚え、街を出て放浪の旅に出ました。自虐的でありながらも野性的で革新的。消費からは得ることのできない自由を求め、本能のままに車を走らせアメリカ中を旅しました。「ビートとは」の項で、"コラムニストのハーブ・カーンが、記事の中で彼らのような人間を「ビートニク」と表現した”と書きましたが、このビートニクも、当時ソビエトが打ち上げに成功した人工衛星スプートニクから文字られており、画一化に反抗する若者を共産主義的な異端者だと遠回しに揶揄したのです。

「路上」の中でビートは多くの意味を持っています。前半では「くたびれた」という意味で使われ、「騙され踏んだくられ肉体的精神的に消耗している世代」を表現していますが、後半、そのネガティブなニュアンスが一気にポジティブな意味に変化します。ビートとはBeatifc(恩恵を受けた)の根本だ、と表現するのです。これは、画一化された社会から逃れるために旅に出た哀れな世代が抱いた苦しみや怒りは、恩恵を受けるべき至福の時代の根底なのだという意味でしょう。またそのポジティブなビートを、モダンジャズ(作中ではチャーリー・パーカーやマイルズ・デイビスが登場するし音楽も引用されている)のビートにつなげ、躍動的でクールな意味としても使われています。結局ケルアックが持つ天性の語彙センスが作った言葉遊びなんですけど、その一つの単語が持つ反逆的でありながらも希望的な意味が魅力に繋がったんだと思います。

ビートの衰退

一世を風靡したビート・ジェネレーションですが、いろんな若者に影響を与え過ぎたが故にカウンター・カルチャーからメジャー・カルチャーに変化してしまい、ビート・ジェネレーションの思想の本質が曖昧になったことから衰退しました。まあこれはカウンター・カルチャーあるあるなんでしょう。ヒッピー文化の消滅も、あまりにも人気が出過ぎて彼らの溜まるモーテルなんかが観光地になったからって説もあるし。

あと、彼ら(ビート・ジェネレーション)の生活には女・酒・ドラッグ・タバコ・犯罪(窃盗とか)が欠かせなくて、割と美化して描かれてるし語り継がれてるんだけど、まあそりゃ長続きしないよね…って感じのクズlifeを送ってました。音楽をはじめとする多くの芸術にドラッグは欠かせない、というかドラッグのおかげで色々な傑作が世に送り出されたのは承知ですが、決してそれが長続きする文化だとは思えませんね。複雑。

最後に

今や「路上」はアメリカ文学を代表する傑作らしいので、読みたかったら難しいこと考えずにバーっと読むのが一番ですね。改行少なくて殴り書きチックなんで合う合わないはありそうだけど…。ただ今回書いたようなビート文化って本当にいろんな物に影響を与えた魅力的な存在なんでもっと調べたいっすね。「吠える」とか「裸のランチ」とかも読みたいけど中々入手できないんだな。

教えてくれたシトウさんに感謝です。

次はジャームッシュの映画のことについてでも書こうか。