がんびーの:雑談でも

映画のこと、本のこと、音楽のこと…。最近あったことをタラタラと綴ります。お暇な方、お付き合いください。

最近よかった映画(2/4〜2/13)

こんにちは。

そろそろ学校始められるかもよ的な連絡がデンマークから来て、この映画漬けの毎日ともお別れかと思うと複雑な気持ち。まあいけるのに越した事は無いんですけども。最近は花束とかすばらしき世界とか新作を映画館で見たいなと思いながら結局部屋でパソコンの画面を見つめてる。映画館行きたいな。

以下最近よかったのです。

 

 

霧の中の風景(1988) テオ・アンゲロプロス

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ムロナガ先生に結構前に教えてもらった監督。カードゲームとかにいそうな強そうな名前の監督ですね。

- 霧の中に一本の木があるだろう?
- 見えないよ
作中に出てくるこのセリフが頭から離れない。溝内殴られたような作品。
すごく良かったけどね。

多分1970年代。社会情勢が悪化の一途を辿るギリシャを舞台に、12歳くらいの姉と6歳くらいの弟があったこともない父親を探しに、一銭も持たず隣国のドイツに旅する。その道中でいろいろな人に出会い…的な。
物語は淡々としているが不明瞭。まさに霧の中その物。その霞んだ風景が、彼らの旅を表しているのか、彼らの人生を表しているのか、ギリシャの不況を表しているのか。もしかすると、その濃い霧の中に一本の木が立っているかもしれない。あるかどうかはわからないけど、ないとは限らない。父のように、そしてオレステス(途中に出てくる兄ちゃん)のように。信じるって魅力的に扱われることが多いけど、闇雲に信じ続けることほど理不尽な事はないなと。

かなりエグい話ではあるけど…、いや、エグい話。けど、とか無いエグい話。
途中に出てくる姉に手を出すおっちゃんは死ぬべき。

 

Saint Maud(2019) ローズ・グラス

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A24ホラー作品。「ミッドサマー」「ヘレディタリー」とかと並べられてオススメされてるけど、個人的にこれの方が好き。だいぶ好き。
敬虔なキリスト教徒である看護師モードが、あるお金持ちの女性の在宅介護をすることになる。最初はいい感じに仲良く過ごしてるんだけど、段々モードの宗教心的なのが過激になっていき、モードは患者に取り憑いている悪魔を取り払おうと一線を超えた行動に出る。
映像はスタイリッシュでカッコいいし、音楽は滅茶苦茶イカツイし、CGも敢えてわかりやすくしてテーマに沿ってるし。とにかく最高。こういう系は大好き。途中浮かび上がるところはタルコフスキー「鏡」のオマージュかな。

人間の孤独から生まれる信仰心がいかに恐ろしいか。宗教は人を救うこともあるけど、人を堕とすこともある。ホラー映画でありながらもメッセージ性のあるドラマ。怖い、というより、恐ろしいの方が的確かな。ラストはゾッとする。

この監督チェックしよ。

 

アメリカの影(1959) ジョン・カサヴェテス

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60年前後にアメリカに衝撃を与えた新鋭監督カサヴェテスの長編処女作品。エンドクレジットで本作は即興演出によって作られたって流れてるけど本当にそうなのかしら…全部そうだったらすげえぞ。

だいぶ良かった。部屋で呑んでる時とかにずっと流してたいような映画。映像の粗さ、ジャズ音楽、音質、どれをとってもビンテージの最高峰って感じでお洒落。ほんとに59年のニューヨークを建物の影に隠れて盗み見てる気分になれる。
黒人と白人の間に生まれた3人兄妹を中心とした日常的映画。特に起承転結があるわけではないが(即興演出なんで当たり前かもだが)、決して話がダレたり逸れたりすることもなく、個性際立つ兄妹が織りなすユーモラスなやり取りと、当時の人種間でのギクシャクを等身大の表現で描いた傑作。

この頃から同時録音可能な音響機器が出回り始めたらしく、本作品も同時録音が殆どなんだとか(それまで音声は後付けが主)。役者の服にピンマイクを仕込んだり、カメラから外れた場所にマイクを設置したりなど。舞台映画が主流だった時代、保守派の方々からすると、クソ重たいカメラ諸々の機材を持って外で撮影するなんて異常だったのだろう。それもあってか、いくつかのシーンで通行人が俳優のことを直視している。この点も、当時の街の空気感だったり撮影の様子を感じることができて非常に良い。あと同時録音の機材がすごく重たかったから、三脚での撮影シーンが多いらしい。

50年代後半から60年代中盤にかけては、技術の進化に伴う映画作家のマインドの変化で、いろんな前衛的な作品が世に出た時期らしいから(これもその一つ)、漁ると楽しい。

カサヴェテス全然見たことないから見たいな。

 

Another Round(2020) トマス・ヴィンダーベア

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ぜひ今年のアカデミー外国語映画賞に輝いてほしい作品。
社会風刺映画で言えば、「パラサイト」よりこっちの方が好き。全然着眼点が違うけれど。トマス・ヴィンダーベアは「偽りなき者」しか見てないけど本当に大好きな監督。てか監督の人間観察力がありすぎるのか絶妙な表情だったり言動がすごいリアル。それを過去作同様マッツが演じてくれるのがまた最高。デンマークに乾杯。
ざっくり言えば中年の教師たちが実験のために(最初らへんは)日中の飲酒を始めるんだけど、飲酒の歯止めが効かなくなってドンドンやばい方向に行っちゃうって話。そもそも日本人と欧米人じゃ体の作りが違うから、飲酒量に関して共感できる点は少ないけど、酔ったときのテンションとか、また飲みたくなっちゃう時の衝動とか、二日酔いの後悔とか、どの国でも一緒なんだなと思った。酒には飲まれるなって聞くけど、マジでそれだなと思う。度数が高くても量が多くても、飲む人がしっかりと自分をコントロールできれば特に問題はない。まあコントロールできなくなるのがアルコールってもんなんで、人間が結果を知っておきながら進んで摂取するのも面白い話だ。

お酒のおかげで生徒からの信頼が増した、授業が面白くなった、家族が円満になった。でもお酒のせいで喧嘩をして、誰かを殴って、誰かが…。良くも悪くも全部お酒のせい。
奥さんが国中全員酒飲みだって言ってたけど、デンマーク国のアルコールに対しての価値観が気になった。

ウォッカ飲み過ぎ。

マッツの前髪がエロい。

 

永い言い訳(2016) 西川美和

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「素晴らしきかな世界」楽しみとか言っておきながら西川監督の作品何も見てなかったのでとりあえずこれを。すごく良かった。前向きになれる、でもポジティブ過ぎない、リアルな映画。

愛人とイチャイチャしている最中に妻がバスの事故で死んでしまった作家の衣笠。自分の名前が偉大な野球選手と一緒なことに昔からコンプレックスに感じている、言い訳の多いちょい糞男。そんな彼が妻と一緒に死んだ女性(妻の昔からの親友)の家のお手伝いをすることに。子供の面倒を見たりご飯を作ったり、そんな中で新しい自分を見出し…的な。

主人公の衣笠が、自身結構糞なことしてるの理屈っぽいリアリストなのが鼻につくんだけど、子供と接してるところとかロック画面彼等の写真にしてるところとか見ると良い人だなと思う。マネージャーの「子育てなんて免罪符でしょ」って発言は図星っぽくて胸に刺さるが。
衣笠と対照的なトラック運転手とのやりとりがこの映画の味噌なのか。最愛の妻を亡くし涙流しまくりのトラック運転手と、彼女が死んだ時愛人と一緒にいて死んでもそこまで実感なさげな衣笠。頑張って忘れて新しい生活を送ろうとする前者と、罪滅ぼしの如く自分の悪さを改善する後者。
どちらも妻が死んだことに対しての言い訳なのかもしれないが(特に衣笠)、じっくりとその言い訳に向き合って新たな人生に踏み出して欲しいと願った。

子役が可愛すぎるのと坂道が綺麗だった。

 

突撃(1957) スタンリー・キューブリック

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パワハラの究極形態を見れる作品。

もし俺が29歳でこれ撮れたら満足して監督辞めるかな。
凄過ぎるぜキューブリックさん。

現金に体を張れ」を見てハリウッドデビュー作がこれは凄まじいなと思ったけど、それに続いた二作目が超大規模な戦争映画で、しかも超ハイクオリティだなんてもう堪んねえっす。キューブリック作品はスパルタカスバリー・リンドン以外見たんだけど、初期の方が好み。特にこれと現金は大好き。まあ全部神がかってるのは間違いないんだけど。

第一次世界大戦下、ドイツのアリ塚を攻めようと無謀な作戦を将軍に持ちかけるフランスのお偉いさん。脳筋な将軍は気合があればいけるぜ的な感じで了解し、ダックス大佐に命令を出す。その作戦は無謀すぎると反論するも、絶対に命令に従えと将軍が圧をかけ、ダックス大佐の隊は作戦を実行する。しかし予想通り作戦は失敗に終わり、やる気がないからだ!と怒った将軍が隊から3人を出し公開処刑をしようとする…。

ストーリーの前半が無謀な作戦の戦闘シーン、後半が裁判のシーン。どちらも理不尽の極みなので、全世界のパワハラ上司は履修すべき。皺寄せは無実の人間にいくよね。
お偉いさんと将軍と大佐の3人の上下関係が凄くうまく描かれていた。昨今オリンピック委員長のお偉いさんがディスられてるけど、まじでこれ見た方がいいと思う。ダックスさんが「お前をここまで放置してた俺が悪かった」的なこと言うシーンあるけど…、どう?

最後は泣ける。
フランスでは一時公開禁止だったらしい。

 

鶴は飛んでゆく(1957) ミヘイル・カラトジシュヴィリ

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傑作戦争映画。
これ突撃と同じ年の映画なのか。

ソ連の戦争映画は初めてかもだけど凄く良かった。長尺で難しいイメージは偏見だった(炎628だね)。短いしストーリーは単純。それでもって素晴らしいカメラワーク(これ本当にすごかった!)と美しい構図。傑作と呼ばれる所以がわかる。やっぱ戦争みたいな実際に起こった悲劇を映画にする時には、無駄に誇張せずストレートに伝えた方がいいなと思った。日本語字幕なかったから英語字幕でみたけど全然いけるほど単純。

婚約者が志願兵として戦争に行ってしまい、彼の帰りを待ち続けるベロニカ。しかし彼がいない間に甥のマルクと結婚してしまい後悔の念に苛まれる。彼は果たして帰ってくるのか…的な。ありきたりな展開だから先は読めるけど、それでもっやっぱり胸を打たれる。ほんとラストは悲しくて見てられなかった。いい感じに美化してるけど残酷すぎる。

甥は糞だけど、空襲の最中に愛の告白をして顔面打たれまくるシーンは好き。
あんな時にチェイコフスキー弾くな。

ベロニカがオードリー・ヘプバーンに見える。
 

バーバー(2001) コーエン兄弟

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掛け違えたボタン。治そうと思ったら千切れちゃった。そんな話。

床屋の無口なおじさんがある日妻の不倫を知り、少しばかり不倫相手に嫌な思いをさせようと取った行動が負の連鎖を招いてしまう話。冤罪の映画とも復讐の映画とも言えない、なんとも独特な映画。コーエン兄弟の作品ってジャンルに当てはめることができない魅力があって素敵。モノクロの落ち着きながらキレのある画面と主演のおっちゃんの渋い声とタバコを吹かす仕草が、作品をお洒落に上品に仕上げている印象。

複雑化していく話にはコーエン兄弟の手腕を感じる。何か一つの出来事に向かってことが進んでいく、そんな単純な展開にさせない彼らのユーモアは天才的。

最後まで髪型を気にする主人公と、バックに流れるベートーヴェンが余韻を長引かせる。

予想とは違う作品だったが良かった。
前情報ない方が良し。

 

サマリア(2004) キム・ギトク

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はじめてのキム・ギドク
良かった。

売春とか殺人とか、心が痛くなる要素を詰め合わせながらも、ラストシーンには愛を感じた。賛否両論あるらしいけど、あの終わらせ方は素晴らしいと思う。
高1くらいのジェヨンとヨジンがヨーロッパ旅行に行くために売春をする。ヨジンが古いSNSみたいなので相手を探してお金を管理し、実際に体を売るのはジェヨン。ある日警察がホテルに突然押しかけてきてジェヨンは窓から飛びおり死亡。そこからヨジンの父親も話に入ってきて一気にテンポが増す。

家族がいながらも簡単に売春に手を染める大人の闇の部分と、復讐という目的のためなら簡単に一線を超えてしまう善良な人間の影。「ジェヨンのため」と「娘のため」の二つの願いが交錯した挙句の言葉を失う結末。

きっとお父さんは娘のことを思い石に黄色の塗料を塗ったのだろう。家にちゃんと帰れるようにと願って。

ジムノペディが流れる映画は必ず誰か死ぬ。